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BtoB企業のサーキュラー・エコノミー成功のカギ「産業共生」とは?

作成者: D-sol|Jul 24, 2025 12:30:00 AM

サーキュラー・エコノミーへの社会的関心が高まる中、最近では特にBtoB企業の方から「取り組みがなかなか前に進まない」というご相談を受けることが増えています。そのお悩みを解決する、いま注目のキーコンセプトが「産業共生」。一体どういうものなのか、事例も交えて電通グループにおけるサーキュラー・エコノミーの専門家である電通ライブ 堀田が解説します。

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INDEX

なぜBtoBのサーキュラー・エコノミーはむずかしいのか

リソース確保やパートナー探しに苦戦

BtoB企業のサーキュラー・エコノミー施策はなぜ進まないのか。よくお聞きするのは、例えばこんなお悩みです。

「循環サイクルを構築するために必要なリソースが幅広く、自社だけでは完結できない」
「ビジネスに実装するにはコストがかかりすぎる」
「協業ネットワークを広げたいが、親睦会にとどまりがち」
「BtoBにおけるモデルケースが少なく、参考にできるものがない」

取り組みたい意思があっても、リソースの確保やパートナー探しに苦戦している。そんなBtoB企業の状況が見えてきます。

BtoBで重要なのは、新たな産業基盤となる仕組みづくり

BtoBのサーキュラー・エコノミーについて考えていく前に、そもそもBtoBとBtoCにおける発想やアプローチの違いを考えてみましょう。いずれも「循環型経済の実現」が大目的ですが、細かく見ると明確な違いがあります。

BtoBでは、「どのようにすれば、大量の資源循環を実現するための産業基盤を構築することができるか」という発想に基づいて、サーキュラー・エコノミーにアプローチします。その実現のために欠かすことのできない企業間の連携を探り、長期的な信頼関係と技術的互換性を築きながら、資源効率の高い低コストの仕組みづくりを目指します。

一方、BtoCでは、「どのようにすれば、生活者の意識や行動を変えて、事業と社会をよりよい方向に変革できるか」という発想に基づいて、サーキュラー・エコノミーにアプローチする傾向があります。そのために必要な取り組みとして、例えば参加しやすい便利で魅力的な回収システムやシェアリングサービスを開発し、顧客満足度やブランドロイヤルティを高めながら、 社会の"あたりまえ"を変えていこうと考えます。

サーキュラー・エコノミーで成功するためには、企業と企業がお互いの違いを乗り越えて連携することが欠かせません、特にBtoB企業にとっては、共通の目的のもとに成果を上げる仕組みを産業基盤を構築し、お互いが得られるメリットを提案することが大切になってきます。

では、その仕組みやメリットづくりに向けて、何をどのように考えればよいでしょうか。ひとつのカギとして、今回ご紹介する「産業共生(Industrial Symbiosis)」という考え方があります。

 

BtoBサーキュラー・エコノミーの成功事例

「産業共生」とは、簡単に言えば「近接する地域の異なる産業間で資源を交換・利用しあうこと」。具体的に理解するには、まず事例をご覧いただくのが一番です。いずれも国外のケースですが、産業共生によってサーキュラー・エコノミーを実現させている3つの成功事例をご紹介します。

事例1:フライドポテトの残り油が、輸送用燃料に

最初の事例は、私たちに身近なファストフードチェーンの廃棄物を活用した取り組みです。 物流の大手グローバル企業HAVIが、オランダにある252店舗のマクドナルドからフライドポテトを揚げる際に使用された調理油を回収。回収された油はフィンランドの再生可能燃料メーカーNesteによって再生可能ディーゼル燃料に変換されたのち、HAVIの輸送用車両の燃料となり、マクドナルドへの物資輸送時に使用されるという仕組みです。マクドナルドは自社からの廃棄物を減らすことができ、HAVIは化石ディーゼル燃料を使用する場合と比べライフスタイル全体での温室効果ガス排出量を最大90%削減できました。

※参照サイト・画像引用元:Neste, McDonald’s Netherlands and HAVI enter into circular economy collaboration in the Netherlands

事例2:発電所から排出されるCO2を集め、ビール製造に活用

次の事例は、これまで連携する機会のなかった異業種同士がパートナーを組んだ事例です。 2018年夏、パブ文化を誇るイギリスで、ビールの炭酸の元になる二酸化炭素(CO2)ガスが不足するという事態が発生しました。これを受け、イギリス最大のバイオマス発電所を持つドラックス社は、CO2をビール業界に安定的に提供していくために発電所の炭素回収と貯蔵に取り組むパイロットプロジェクトを開始。排出されるCO2を資源に変える、環境貢献性の高い新たなモデルを創出しました。

※参照サイト・画像引用元:Drax could help keep the fizz in the drinks sector

事例3:地域ぐるみで20種以上の資源を循環利用

最後に紹介するのは、地域全体で産業共生に取り組み、サーキュラー・エコノミーを実現させた事例です。
デンマーク・カルンボー市で1961年に始まった「カルンボー・シンビオシス」は、発電所や製薬会社、製油所、自治体など17の公的・民間企業が参加する産業共生プロジェクト。ある企業の副産物や余剰エネルギーなどを他の企業の資源として活用することで、地域における原材料コストを大幅に削減します。循環される資源は、熱や水、蒸気、副産物、そして、汚泥など20種類以上! 企業主導の自発的な協力体制が特徴で、持続可能な循環型社会の国際的モデルとなっています。

※参照サイト・画像引用元:Kalundborg Symbiosis

成功事例に共通するカギ、「産業共生」とは?

CO2削減に多面的に貢献し、経済的にも利益を生む

以上の事例を頭に置きつつ、産業共生の定義やメリットについてより詳しく確認していきましょう。

先ほど、産業共生の定義を「近接する地域の異なる産業間で資源を交換・利用しあうこと」と言いましたが、CO2削減をはじめとする環境負荷低減を実現しながら、経済的にも利益を得る取り組みである(=環境性と事業性を同時に実現する)ことが重要な点です。例えば事例3では、17の公的・民間企業が産業共生による資源循環の仕組みを利用しています。それにより、廃棄物処理コスト・燃料コスト・温室効果ガス排出量をすべて抑えることに成功しています。

この根本にある発想として覚えておきたいのが、廃棄物=資源という視点です。産業共生は、「ある企業の廃棄物や副産物が、別の企業にとっては価値ある材料となり得る」という発想に立っています。

近しい地域の企業間連携が原則

産業共生は、原則として地理的に近い企業間での連携が基本となります。これは、輸送コストと環境負荷を最小化するため。事例3の「カルンボー・シンビオシス」のように、同じ市内でより多くの企業が連携し合うことが理想的です。これは、食材の地産地消とも近い考え方です。

産業共生の5つの型

事例3の「カルンボー・シンビオシス」では20種以上もの資源を地域内で共有・再利用していましたが、対象となる資源は廃棄物や副産物の再利用に限らず、エネルギーやインフラ設備などさまざまな資源が含まれます。代表的な産業共生のタイプとして、主に下記の5つが挙げられます。

【材料交換型】
他社の廃棄物や副産物を自社の原料として使用する。例:製鉄スラグをセメント原料に活用

【エネルギーカスケード型】
排熱や余剰エネルギーを別のプロセスで再利用する。例:発電所の排熱を近隣工場で活用

【水資源共有型】
処理水や冷却水を別企業で再利用する。例:食品工場の処理水を別工場の冷却水として再利用

【インフラ共有型】
複数企業で設備・物流網を共用する。例:廃棄物処理施設・倉庫・輸送ルートの共用

【仲介ビジネス型】
企業間の廃棄物・副産物の交換をマッチングする。例:産業廃棄物をマッチングするプラットフォームを提供

産業共生は、節約とイノベーションを同時に叶える!

産業共生を支える「二重の節約」モデル

産業共生がもたらす特徴的な側面として、「二重の節約(Double Dividend)」と呼ばれる経済インセンティブモデルがあります。取引に関わる企業のどちらか一方が得をするのではなく、双方に経済的メリットが生まれるという考え方です。

廃棄物が発生する側の企業は、その廃棄物の処理コストを減らすことができる。廃棄物を再利用する側の企業は、原材料の調達コストを減らすことができる。互いにwin-winな関係性が築けるからこそ、持続的な連携が実現するのです。

イノベーションの強力なドライバーにもなる

さらに産業共生には、単なる廃棄物交換による節約にとどまらず、イノベーションを促進する可能性も持っています。

それは、通常ではつながることのない企業同士が協業することで、異なる知識体系が融合するから。業界の常識や慣習にとらわれない発想が引き出され、これまでにない課題解決アプローチや新たな製品・サービスの開発につながっていく。産業共生は、サーキュラー・エコノミーへの移行を加速させる仕組みであると同時に、未来の産業創造の場にもなりうる非常に重要なファクターと言えます。

産業共生の第一歩を踏み出すために

産業共生に欠かせない4つの力

環境負荷を抑えながら経済ベネフィットも得られ、さらにイノベーションの可能性も持つ産業共生。ですが、実現するにはハードルも少なくありません。異業種同士が連携するためには、自社以外の領域に目を向けつつ、どういった共生の可能性があるのか創造的に探る必要があるからです。

産業共生では、特に以下の4つの力が求められます。

1.つなぐ力
従来は関連性がないと思われていた産業間の資源フローを創造的に結びつける

2.発想する力
「廃棄物」と見なされていたものの中に、隠れた潜在価値を見出し、活用法を発想する

3.実現する力
複数の廃棄物/副産物を組み合わせた新たな活用法やプロダクト、サービスを生み出すクリエイティビティ

4.伝える力
企業間の異なる業界用語や技術的概念を翻訳し、橋渡しするコミュニケーション力

「産業共生コーディネーション」で取り組みを支援

こうした産業共生のハードルを乗り越えていくために、電通グループではBtoB企業向けに「産業共生コーディネーション」を提供しています。産業共生に必要な4つの力で企業同士の連携を促進し、循環型の事業モデルへの変革を支援するソリューション・サービスです。

産業共生の機会を見極めてパートナーとのマッチングを行うのみならず、実装設計や実施支援、プロジェクトのモニタリングやPRまでもご支援。準備から発信まで一貫して伴走できることが大きな強みです。電通グループならではのクリエイティビティとコンサルティング、企業ネットワークを駆使し、資源循環を叶える新たな産業基盤の構築を目指します。

BtoBのサーキュラー・エコノミーは、パートナー企業との連携なしには実現しません。私たち電通もまた貴社のパートナーとして、そして企業間の橋渡し的存在として、産業共生を実現するお手伝いができればと思っています。サーキュラー・エコノミーに苦戦しているBtoB企業の方はもちろん、イノベーションのヒントを探している企業の方など、産業共生に興味を持たれた方はぜひ私たちにご相談ください。